血の赤と漆黒の黒。

私の……ユウ=ヤマナミの心はこの二つの色で染まっていた。

それだけだった。それ以外は何も無かった。

だから、私の心はすっかり冷えきってしまった。何をされても何とも思わなくなってしまった。

そして、いつの間にかどう笑うのかも忘れてしまった。


でも、アリエスで彼…相澤涼太と出会ってから私は変わった。いや、涼太が私を変えてくれた。

涼太は私を受け入れてくれた。私のことを好きだと言ってくれた。

そして……私の心を救ってくれた。いつまでもどこまでも続く漆黒の闇から…。

そして、気が付くと私は涼太を好きになってしまった。


でも…今は怖い。涼太を好きになることがとても怖い…。

今まで傭兵として生きるか死ぬかの世界で生きてきた私だ。

人を殺したことのある私だ。他人の血で手が赤く染まった私だ。

こんな私が幸せになる資格があるのだろうかと思う時がある。

今更だが…。


だから、私は今まで答えを出さなかった。出したくなかった。

涼太に自分の気持ちを伝えようとしなかった。

私が答えを出したら涼太は幸せを壊してしまうのではないかと思うから。


そして、アリエスで…涼太と出会ってから半年が経った。





White





今は2月。そう。アリエスで涼太と出会ってから半年が経った。

街は聖バレンタインデー一色で賑わっている。

でも、私には関係ない。全然関係ない。

と言うかそんな気分じゃない。半年前の事をまだ忘れる事が出来ないから。それに、チョコレートを見るだけで嫌な気分になる。

そう。チョコのあの黒い色を見るだけでも…。

そう思いながら私はスーパーに入った。


スーパーの中はバレンタインデーのせいか人が多かった。

その証拠に菓子売り場に女性が集中していた。

「はあ…よくやるわね。」

私はそう呟くとその場所から立ち去ろうとした。

だが、その時だった。

立ち去ろうとした時私はそれを見つけた。

「これは…。」

私はすっとそれに手を伸ばす。それは、白い紙袋で包装されたホワイトチョコレートだった。

「こういうチョコレートもあったんだ。」

私はそう言うとホワイトチョコレートを元の陳列棚に返そうとするが…返せなかった。

「……どうしてだろう。チョコレートなんか大嫌いなのに。」

その理由は…本当は分かっていた。

でも、私はそれを認めるのが怖かった。

バレンタインデーに涼太にチョコレートをあげたいんだと認めるのが…。

そして、気が付くと私は買っていた。

ホワイトチョコレート30袋と大量のケーキの材料を…。

いつもよりもお金を消耗したが、ハララクス(B)の依頼を受けた時の前金がまだ残っていたので特に問題無かった。

「何でこんなことを…。」

私はスーパーから出るとふっと溜め息をついた。




どっか〜ん!!


「…ま、又失敗。」

知らないうちに金属を入れてしまったせいか電子レンジが爆発した。

「これで12度目の失敗だ。」

私はそう言って溜め息をつく。

恥ずかしい話だが私は料理はあまり上手なほうではない。

特にお菓子作りはこれが初めてだ。

こんなことならアリエスにいた時に七央さんからお菓子作りを習っておけば良かったと少し後悔する。

今更だが…。

「明日で14日だし、材料ももう殆ど残ってないし…もう失敗は許されないな。」

そう。もう材料は殆ど無い。と言うかもう一回分しか残っていない。つまりこれがラストチャンスだ。だから、もう失敗は許されない。

私はそう思うとチョコレートケーキ作りの本をもう一度見直す。

「よし、作り方は頭の中に入った。」

そう言って私は最後のケーキ作りを始めた。


チン!!

幸い、今度は爆発しなかった。

でも、まだ安心できない。

半焼け状態や黒焦げ状態になることもあるからだ。

私はドキドキしながら電子レンジを開ける。

形は悪くないし、色も焦げてない。

最後は……成功だったようだ。

「……やった。」

私は嬉しさの余りガッツポーズをとる。

「よし、後は溶かしたホワイトチョコレートをケーキに塗れば完成だ。」

そして、30分後…ホワイトチョコレートケーキは無事完成した。

「やっと……完成した。」

私はそう呟くと疲れのあまり眠ってしまった。

3日も徹夜したから完成した途端にその疲れがどっと出てしまったからだ。


そして翌日……私は携帯電話のアラームで目を覚ます。

「ふう…もうこんな時間か。」

私はそう呟くと携帯のメールデータをチェックする。すると、涼太からメールが来ていた。

内容は『ユウさん、今日空いてる?空いてるのならデートしない?』だった。

それに対して私は『空いてる。4時にいつもの公園で待ってます。』と書いてメールを送った。

そして、この時私は決意した。涼太に自分の気持ちを伝えようと。

それは…答えが出たから。

「はあ…。」

私はいつもの待ち合わせ場所の公園のベンチで溜め息をつく。

ちなみに涼太はまだ来ていない。

でも、まだ3時半だから別に構わない。

それにあの事件からまだ半年しか経っていない。そのお陰で毎日マスコミに追われる生活はまだ続いている。

そのせいでマスコミを撒くのに時間がかかってデートに遅刻するということもよくある。

だから、別に構わない。今日は特に……。

だが、その時だった。雪が降ってきた。

「雪…?天気予報では晴れって言ってたのに。」

傘を持っていなかった私は少し迷ったが涼太を待つ事にした。雪はすぐに止むと思っていたしここを離れたくなかったから。

しかし、雪は止まずにどんどん積もっていく。

時間は……まだ3時45分だ。

「やばいな。約束の時間までまだ15分もある。」

私がそう言って俯いたその時だった。

「やっぱこんなことだろうと思って急いだけど……正解だった。」

「えっ…?」

私はその声に反応して顔を上げる。

そこには傘を差した涼太が立っていた。

「り、涼太どうして……。」

私は驚きを隠さずに尋ねる。

「学校終わってから外に出たら雪が降ってたから、それでユウさんのことが心配になってつい…。」

涼太は照れながら答えた。そして…

「それに、今日は…その…バレンタインデーだから。」

涼太は顔を真っ赤にして理由を付け足す。

そんな涼太を見て私はフッと笑ってしまった。

「あっ、ユウさんひどいですよ。」

「あっ、ごめん。」

それから私達は行きつけの喫茶店に移動した。


喫茶店に入ったのはいいが…落ち着かない。

何故か落ち着かない。

ここでバレンタイン用に作ったホワイトチョコレートケーキを渡そうとしたが……怖くて渡せない。

よく見たら落ち着かないのは涼太も同じだった。

ウェイトレスが最初に持ってきたお水をこぼすし……。

そんな涼太を見て私は少し気が楽になった。

そこで、私は言った。

「あっ…涼太。」

「はい?」

「これ……あんまり美味しくないと思うけど、今日…バレンタインデーだから……。」

私はそう言って鞄の中からホワイトチョコレートケーキの入った箱を取り出して涼太に渡した。

「答えを出すのに半年もかかったけど…言うわ。私も貴方のことが好きです。ですから……こんな私で良ければ…付き合ってください。」

それに対して涼太は言った。笑顔で……。

「ユウさん……ありがとう。」


それから数分後…涼太は箱を開けて質問した。

「ねえユウさん、何でホワイトチョコレートケーキなの?確かにホワイトチョコレートケーキもあるけど、ブラックの方が多いから…。」

それに対して私は少し答えようかどうかで迷ったが、答えることにした。

「ホワイトにした理由は……黒が嫌いだったから。」

「えっ!?それ、どういうこと?」

「黒は……闇の色だから。涼太と会う前の私の心の色の一つだったから。」

「そう。じゃあ、もう一つの色は?」

「もう一つの色は…赤。そう。血の赤……。」

涼太はそれを聞いて「しまった」という顔になった。そこで、私は話を変えることにした。

「もう一つの理由は…貴方に対する感謝かな。」

「えっ!?」

「そう。アリエスで…私を変えてくれたこと、私の心を救ってくれたことに対する感謝。」

「……。」

涼太はそれを聞いて暫く何も言わなくなった。だが…

「……感謝したいのは僕の方だよ。」

と答えた。

「アリエスで…ユウさんは何度も僕の命を助けてくれたし、ユウさんと出会ったから僕は前よりも強くなれた。それに、兄貴や七央さんを失ったけど…ユウさんがいたから一人にならずに済んだ。だから、僕も貴女に言います。ありがとう。」

涼太は笑顔で言った。それに対して私は…

「こちらこそ…ありがとう。そして、これからもよろしく。」

少し照れながら言った。それに対して涼太も…

「はい。こちらこそこれからもよろしくお願いします。」

笑顔で言った。


こうして私達はやっと恋人同士になった。

これからも大変だと思うが、きっと大丈夫だと思う。

それは、私は見つけたから。

そう。私のことを支えてくれる人を。私と共に同じ道を歩いてくれる人を…。

〜Fin〜


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あとがき

どうも菩提樹です。遅くなりましたがバレンタインデーもののSSです。何度か書くのを止めようかと思いましたが、約束を反故にするのも嫌でしたので書きました。ちなみに今回は「Soul Link」でいきました。内容は読んでの通り涼太×ユウものです。本当なら沙佳と亜希も登場させたかったのですが、この2人を登場させるとギャグになってしまうので止めました。出来れば、今度はホワイトデーものも書いてみようかと思います。それでは。今回はこの辺で。