First Kissは誰ですか? 〜8年前の想い出〜
             written by 龍馬


8年前・・・

稟は駅前で一人の少女に出会った。

少女は膝を抱えるようにして、その場にしゃがみこんで泣いていた。

周りの人達は誰も少女に近づこうとしない。

まるで、「面倒事は勘弁だ」といわんように。

少女のすすり泣く声が聞こえた。

「お父さん・・・お母さん・・・ぐすっ・・・」

稟は、その少女に近づいて行った。

稟は、当時から人が悲しんでいる姿を見るのは好きではなかった。

それに、当時は楓のことがあったから尚更だった。

そして、未だ泣き止まない少女に優しく声を掛ける。

「どうしたの?なんで泣いてるの?」

少女は稟の声に気づいたのか、泣き止んで、稟に顔を向けた。

その顔は涙でぐしゃぐしゃになり、目は赤くなっていた。

「あのね、わたしね、一人で電車に乗ってここまできたの。だけどね、わたし一人で、迷子になっちゃったの・・・」

涙で言葉が詰まりながらも、少女は早口に言葉を並べた。

しかし、話すにつれて自分が迷子であると思い出したのか、再び嗚咽を濡らしはじめた。

稟は、少女の泣いている原因を黙って聞いていたが、少女からまた涙がこぼれ始めたので、自分の

持っているハンカチを使って、彼女の顔を拭いた。

そして、少女を慰めるように、言葉を出す。

「そうか、迷子なんだ・・・。わかった。俺がなんとかするから。だから泣き止もうよ?一緒に君のお父さんとお母さんを探そう?」

少女は、稟に顔を拭いてもらいながら、稟の言葉を聞いて、最初は驚いた。

しかし、次には笑顔で稟の言葉に頷いた。

「うんっ!そうだ!わたし、シアっていうの。あなたは?」

稟は少女の花の咲いたような笑顔に見惚れていたが、少女の言葉で我に返り、言葉を返す。

「俺は稟。よろしくなっ!シア」

「うんっ!」

二人はお互いに名前を言い合ったあと、再び笑いあった。

それから二人は駅を離れ、シアのお父さんとお母さんを探すために、町中を歩くことにした。

最初の方は、「お父さんとお母さん探し」だったはずだが、いつのまにか、二人は町を見て周りなが

ら、遊んでいた。

それは、公園につくと、かくれんぼになったり、追いかけっこになったりと、稟とシアの二人は、遊ぶ

ことに夢中になっていた。

しかし、時間は過ぎるもの。

遊ぶことに夢中になっていた二人は、肝心の「お父さんとお母さん探し」を忘れていたことに気づい

た。

だが、遊ぶことに体力を使い切ってしまった二人には、シアのお父さんお母さんを探しに行く体力は

残されていない。

シアは、もう大好きなお父さんやお母さん達に会えないのではないかと、また泣き始めてしまった。

「お父さん・・・お母さん・・・もう会えないのかなあ・・・・・ぐすっ」

稟は出会った時のように泣き始めたシアに対して、何も言葉をかけられない。

稟は、すぐ側で泣き始めたシアに何もしてやれない自分に苛立ちを感じていた。

(今の俺に何ができる?俺はシアに何もしてあげれないのか?これじゃあ、楓と同じじゃないか・・・)

ところが、何もできずに悩む稟の手に自分の手を重ねながら、シアは泣きながらお詫びの言葉を述

べてきた。

「ごめんね・・・?ごめんね、稟くん・・・。せっかく一緒に探してくれたのに・・・一緒に遊んでくれたのに・・・」

稟はシアの言葉に戸惑いを隠せなかった。

「一緒に探そう?」と言いながら、探し出せなかったのは自分の責任なのに・・・。

それなのに、目の前の少女は自分に謝っているのである。

謝るべきは自分の方なのに・・・!?

そのあとの行動は、稟自身も信じられなかった。

稟は、シアに向き直り、彼女の肩に手を乗せ、そしてシアの口唇に自分の口唇を合わせたのだ。

シアは、稟の突然の行動に驚いたが、稟のキスを受け入れた。

ほんの僅かな間の触れ合うだけのキス。

口唇を離したあとに稟は真っ赤になりながら、同じように真っ赤になっているシアに言葉を掛ける。

「ごめん・・・本当は謝るのは俺の方なのに。それに・・・」

「ううん。そんな事無いよ?わたしは稟くんが一緒に居てくれて良かった。それに稟くんが・・・その・・・キスしてくれて嬉しかったよ!」

お互いに真っ赤な顔のまま、向き合って言葉を交わす。

二人はまたお互いに顔を見合わせて笑い合った。

そうしてしばらくすると・・・

「シア〜!!!」

大声で叫びながら、こちらに近づいてくる大きな男がいた。

「お父さん!!」

その声に反応するように、シアも大声を出して稟と手を繋いで男の方へ向かう。

「シア〜。よかった!!無事で!!!」

「うん!稟くんが一緒に居てくれたから、大丈夫だったよっ!」

「そうかっ!?それは良かったなっ!どうもありがとなっ!稟殿!」

「い、いえ」

「それじゃ帰るか?シア。お母さん達も待ってるぜ?」

「うんっ!稟くん、今日は本当にありがとう!!じゃあ、またね?」

「うん。シアもな?」

そういって、シアとそのお父さんは帰ろうとした。しかし、シアが突然、稟の元へ戻ってきた。

「えへへ。忘れ物しちゃった。じゃあね、稟くん!(チュッ)」

「なっ・・・!?」

今度は、シアが『忘れ物』・・・稟の口唇にキスをした。稟は驚いたままで固まってしまった。

そしてシアは再びお父さんの元に戻り、手を振りながら、笑顔で帰っていった。

8年前の大切な想い出・・・。

これが、8年後に大きな騒動を起こす発端になるとは・・・

今は誰も知らない。



(Fin)
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<後書き>

どうも。龍馬です。

今回はシアと稟の8年前の想い出を元に、自分なりに解釈して書いてみました。
実は、この話は最初はコメディーの方面で書くつもりの話でした。
しかし、想い出を汚す・・・なんてことは、例えゲームのシナリオだとしても、冗談でも出来なかったので、シリアス&ほのラブ風味で仕上げました。
しかし、完成して思ったこと・・・『小学生のキスが、大人並に見える』でした。
この辺りは、雰囲気をだそうと思って書いたのですが、逆に出しすぎてしまったようです。
今回の反省点は、次回で生かそうと思います。

それでは、次回にまたお会いしましょう。
次回の短編はネリネの予定です。
長編は、ネタは固まっても文章化が進展しない・・・スランプです (汗)

感想&批評があれば、BBSにお願いします。