サクライロノキセツ

プレリュード

コーポエヴァ主催

April Festival投稿SS

美咲 ストーリー

written by ruiford

 

 

 

 

純一さんとお付き合いさせていただくようになって2年

今も私達はうまくやらせていただいています

今日も純一さんとデートに行くんです

春の訪れと同時に初音島の桜が咲き誇り…

かつての枯れぬ桜の時の初音島の様子に戻りました

だけどもう桜は移りゆきます

だから短いこのときにお花見をしようと言う事になったんです

1週間も前から約束していたのでとても楽しみです

張り切ってお弁当も作りましたし、準備も万端です

もちろん、頼子も一緒です

お花見の場所はもちろんあの桜です

私達を出会わせるきっかけを作ってくれた、あの魔法の桜の下で…

感謝の気持ちと、一年ぶりの再会の挨拶を伝えるために

私は待ち合わせ時刻の30分も前に着いて一人そんな事を考えます

「にゃ〜」

「あ、ごめんね。頼子もいるわよね」

純一さん、今日はどれぐらい遅れるでしょうか?

それとも意外にもう来てくださってびっくりするでしょうか?

ふふっ…あの人の私を見てびっくりする顔が浮かびます

桜公園の入り口辺りで私はきょろきょろと周りを見渡します

来て…無いですね

でも遅刻してくるのもあの人らしいといえばそうなのでそれも可愛らしく感じます

眞子さんが言うには惚れてしまった者の負けということらしいです

お弁当の入ったレジャーバッグや頼子の入っていた籠をベンチに置いて、頼子を抱きながら座ります

なんだかどきどきして落ち着かないですね

純一さんといると毎日が楽しくて新鮮で…

隣を歩くだけでもどきどきします

手を繋いだりするのはもっとどきどきします

だけどそんなどきどき感が心地よくもあります

純一さん、はやく来て下さらないかな…

私は桜に囲まれたベンチでゆっくりとした風を感じます

桜の花弁が舞い、風が私の髪を撫でていきます

「ここでも充分お花見が出来そうですね」

「にゃ〜」

まるで私と頼子が会話しているように、目の前の風景を見ながら独り言を呟きます

空気が暖かくて…風も優しくて…

やっと、春が来たんですね…

一年

口に出してみるとたったの一言ですが、今年は特に長いものに感じました

全て、純一さんのおかげです

世界を知らない私にいろんなことを見せてくださりました

純一さんがいつも私の手を引いて、一緒にいてくださったからそう感じれるのでしょう

全て鮮明に記憶に残っています

体育祭や文化祭…

プールに行ったり…お祭りに行ったり…

お月見をしたり…

二人で重ねてきた想い出は大切な想い出です

思い返してみれば何を思い出しても隣には純一さんがいてくださいました

「ちゃんと、お礼しなくてはいけませんね」

「にゃ♪」

頼子と過ごした時間の思い出よりもとても多くの想い出をこの短期間で作ってくださった純一さん

頼子も大好きな純一さん

たまに頼子がどこかへ行って帰ってこないと思ったら、純一さんの家に泊まっていたりすることもありました

私達は純一さんの事が大好きです

そんなあなたと出会ったこの桜が咲く季節

また、二人で迎える事が出来ました

ベンチに一人で座って、私は微笑みます

それは誰に向けられたのかもわからない笑顔でしたが…

多分、届いているはずです

桜や…

頼子や…

純一さんに…

そろそろ、時間でしょうか?

時計を見てみますがまだ15分ほどありました

こう気持ちが昂っていると待っている時間の進みが遅く感じますね

「ほらっ! 早く来なさいよ〜っ!! あはははっ! すっご〜いっ♪」

「あんまりはしゃぐとこけるぞ!」

「キキョウちゃん、待ってよっ♪」

目の前を見慣れない人が楽しそうに横切っていきます

そっくりな女性二人に端整な顔をした男性

恋人なんでしょうか、手をしっかりと握っていて幸せそうな雰囲気がしました

一人の女性はその前を元気に桜の花弁を掴もうとしています

「あたし、桜って始めて見たっ!!」

「私も! 稟くん、連れてきてきれてありがとうっ♪」

「たまにはな」

とても楽しそうに3人は桜を眺めています

なんだか、羨ましいですね

あんな風に私ももっと純一さんに触れたい

元気に笑顔でいたいです

「ねえねえ、この辺りで一番桜が綺麗に見れるのって何処?」

「えっ!?」

少し考えていたので顔を下げていたのですが、急に掛けられた声に顔を上げると、

さっきまで男性の手を握っていた女性が私の顔を覗いていました

「急に声かけるから驚いてるだろ。すみません、こいつがどうしても一番綺麗なところで見たいって言うものですから…」

「なによ〜っ、あたしのせい?」

「キキョウちゃんが言ったのは確かでしょ?」

「そ、そうだけど…」

「俺たち、初音島へは初めて来たからわからないんだ」

「そ、それなら高台なんかはどうでしょうか? あちらの道を真っ直ぐに行けば少し遠いですが、初音島を展望できます…」

なんとか声に出して伝えることが出来ました

まだ、純一さん無しでは初対面の人とはうまく話せないので…

ジッと可愛らしい顔で私を見つめているのですが、私は目をあわせられません

「ありがとっ♪」

「稟、はやくいこっ♪」

「ありがとうな」

3人は笑顔で感謝の気持ちを述べて、歩いて行きました

男性の両側に女性が腕を組むようにして…

は、はぁ…びっくりしました…

あの方々が見えなくなって私は大きく息をつきます

心臓が飛び出ちゃうかと思いました…

だけど、あんな風に振舞うのが恋人なんでしょうか?

「頼子、どう思う?」

「……うにゃぁ…」

あら、寝ちゃってたのね…。ごめんね。

私はそっと頼子の背中を撫でてやります

気持ち良さそうに身体が上下します

ちらっと時計を見ます

そろそろ時間ですね

それに…

あなたの姿が見えました

いつもの道をゆっくりと歩くあなたの姿が

「あれ…? 早いな、美咲」

「待ちきれなくなってしまいました♪」

純一さんは時間ちょうど、一秒の狂いも無く来てくださいました

「そうか…。ごめんな、待たせて」

「いいえ、大丈夫ですよ」

そう言って私は頼子をバスケットに入れてあげて、カバンを取ります

だけどその前に純一さんがすっと持ってくださいました

「俺が持つよ。これぐらいしないとな」

「ありがとうございます」

私はそんな純一さんに微笑みます

学校ではかったるいと仰って活発なイメージはありませんが、二人きりだと優しいところを見せてくださいます

「頼子は?」

「眠っちゃいました。春の陽気が心地いいみたいで」

「そうだなぁ…。俺も眠い」

もう、ダメですよ

せっかくのデートなのに…

「なんて言ったっけ? 昔の人の言葉で…」

「春眠暁を覚えず?」

「そう、それだ」

隣を歩く私の方を向いてにこっと笑います

そんな純一さんを見てまた心臓がドキッと跳ね上がります

さっきの道を訊ねられたときとはまた違う、心地よいどきどきです

こんなのんびりとした雰囲気が私にとっては一番心地いいんです

純一さんの家にいるときや、一緒に歩いているときに感じられる独特の空気

「今日はお弁当を頑張って作ったので楽しみにしてくださってもいいですよ」

「そうか、じゃあ早起きしたかいがあるな」

まだ11時なんですが…

純一さんにしてはこれが早起きなんでしょうね

もう、頼子の時からあれだけ自堕落はダメですよって言ってるのに…

また私がメイドとして純一さんにお仕えした方がいいかもしれませんね

恥ずかしいのでそんな事口に出しては言えませんが…

「桜が咲いてるとやっと初音島に戻ったって感じがするな」

不意に純一さんが桜並木を見つめて呟きます

「そうですね」

私もそれに習って同じ方向を見ます

二人で桜の木々が優しい風に揺られているところを眺めます

はらりはらりと花弁が舞っています

桜の香りも少し香ってきます

「桜の香りが何だか安心させてくれるような感じがしますね」

「俺には美咲のシャンプーの香りしかしないんだけどな」

……

そういえば、私のほうが風上にいましたね…

純一さんの言葉に私の顔が熱を持っていくのがわかります

「ご、ごめんなさい」

「謝られることじゃないだろ…」

ポンッと私の頭に純一さんの大きな手がのせられる

「行こうぜ」

「あ…はい」

純一さんが笑ってくださるだけで私の心は満たされます

だけど、純一さんにあまえすぎですね、私

もっとしっかりしないといけませんね

「笑ってる美咲が一番可愛いんだから」

「え…?」

私はその言葉に一瞬止まってしまいます

純一さんが真っ赤な顔で歩いていきます

あの…その…

私も赤くなってるかもしれません…

いえ、赤くなってます…

まさか純一さんからそんなセリフが聞けるとは思ってませんでした

でも可愛いといってくださったことが嬉しくて…

私は少し踏み込んでみます

あの方達のように…

もっと純一さんの近くに…

 

スッ……

 

「行きましょう、純一さん」

まだ熱さの抜けない顔で純一さんの瞳を見上げて微笑みます

その手にはしっかりと純一さんの手が繋がれていて…

私から手を握ったのは初めてですが、純一さんもギュッと握り返してくださいました

「強くなったな」

「相手が純一さんですから」

どきどきの音が聞こえるんじゃないかと思うぐらいの大きな音が私の中で響いています

このどきどきが純一さんに伝わってると思うと恥ずかしいです

聞こえていないことを小さく祈りながら、私はゆっくりと歩き始めました

少しでも長く手を繋いでいられるように…

ゆっくりとゆっくりと……

 

 

 

 

 

「久しぶり」

純一さんのいう秘密基地についてまず最初に放たれた言葉はそれでした

純一さんは真面目な表情で枯れない桜を見つめています

この桜も…普通の桜に戻ったんですね…

「お久しぶりです、あの時はお世話になりました」

まるで先祖のお墓に挨拶するように私達は挨拶します

だけど…これは半分正解なんです

「祖母ちゃん、一年ぶりだな」

純一さんの御婆様が植えた桜、それがこの枯れない桜

純一さんにとっては一番思い出深い場所なんですから…

純一さんが仰っていました

『ここは祖母ちゃんの墓みたいなものなんだよ』と…

ずっと純一さんやさくらさんを…

初音島を見守ってくれていた魔法使い、それが純一さんの御婆様だと仰ってました

この桜が純一さんの御婆様の願いが込められた桜だと

あの頃の幻想的な雰囲気は今も健在で、桜の花弁が舞い散っていてとても綺麗な場所です

それが私達を歓迎しているように思えました

「一年ぶりに会えたのに…何も言う事が見つからないわ」

苦笑して頭をかいている純一さんは恥ずかしげに手を後ろに回しました

「その代わり、これで許してくれ」

私は純一さんの行動をそっと見ていました

右手をギュッと握って開くとそこにはピンク色の桜餅が…

「祖母ちゃんから教えてもらった魔法は、ちゃんと美咲を笑顔にすることが出来たよ」

そう言って枯れない桜の花弁の中に桜餅を投げ込みました

『幸せにね、純一』

そんなセリフが頭をよぎりました

純一さんも同じようで、びっくりしたように桜を見つめていました

「ああ。必ず」

ザワッと桜が風に揺られます

まるで笑ってるような…不思議な感じでした

「じゃ、弁当食べよっか?」

「はい」

純一さんも魔法使い

私を慰めてくださるときにあの魔法を見せてくださいました

優しい優しい魔法使いさんです

先ほどまでの真剣な表情もどこかへ行ってしまい、あどけない笑顔を見せてくださいます

そんなところが…好きになったんですけどね

純一さんは本当にいろんな顔を見せてくださいます

私はカバンからお弁当を取り出して、一つ一つレジャーシートの上に広げます

全部で3つ

純一さんのご飯と私の分と、おかずの入ったお弁当箱と…

それから…

「頼子、ご飯よ」

「にゃ〜…」

眠たそうに目を擦って頼子も籠から出てきます

「お、頼子。ねむねむか?」

「にゃ……」

とぼとぼとゆっくり歩いて純一さんの膝の上に座ります

「ふふっ、頼子も純一さんがいいみたいですね」

私はそこに頼子の分のミルクを差し出します

頼子はそのままミルクを舐め始めます

「もてもてだな」

「それはダメです」

冗談めかした笑顔に私も同じように返します

二人して笑います

そんなやりとりが楽しくて

幸せだから…

そして私達は一緒にお箸を手に取ります

「「いただきます」」

二人で揃ったので何だか恥ずかしい気もしましたが、天枷さんのいう愛のなせる技と言う事にしておきます

……考えていたらもっと恥ずかしいこと言ってますね…

そんなことを考えてるうちに純一さんは口へとおかずを運びます

そしてすぐに感想を言ってくれました

「相変わらず美咲の料理は美味いな」

「ありがとうございます♪」

だって、誰よりも近い場所でお料理をさせていただいているんですから

音夢さんには純一さんがお料理をさせなかったと聞きましたし、

もしかしたら純一さんのお母さんの次に、私のお料理を食べてもらってるかもしれませんね

頼子のときから試行錯誤しながら純一さんが喜ぶようにと頑張ってきた結果が今です

眞子さんに味付けが薄いんじゃない、と言われましたが、純一さんにはこれが一番ちょうどいいんです

私のお料理は純一さんの好みに合わせられていますから

「いつもありがとうな」

「いえ、好きでしていることですよ」

あなたの役に立ちたい

喜んでもらいたいだから頑張れるんです

それからは二人で他愛ないお話をして、あっという間にお弁当は空っぽになってしまいました

純一さんがたくさん食べてくださったので嬉しかったです

「それにしても…ふぁ……あ…」

途中から純一さんのセリフが欠伸に取られてしまいます

「純一さん」

私はぽんぽんと膝を叩きます

少し恥ずかしいですけど、二人っきりですし、いいですよね

「じゃ、あまえようかな」

膝の上でじゃれている頼子を抱きかかえて純一さんは横になります

頼子は純一さんの胸の上に移ります

「にゃ〜…」

「頼子も寝ていいぞ。あ、美咲辛くなったらすぐに起こせよ?」

「大丈夫ですよ。こうしてるだけでも幸せですから」

そっと髪を撫でてみます

「じゃあ、俺も…」

ぐっと首を引っ張られ、純一さんの顔の前に屈むような体勢になります

そして唇がふさがれて…

「ありがと、美咲」

「………(///)」

と、突然すぎます…

そ、それに頼子の見てる前で………ってそれは別にいいんです

それよりも…その…

私が必死に焦ってるのに純一さんはすぐに心地良さそうな寝息を立て始めました

もう…

「お返しです」

私は今度は自分から純一さんにキスしました

頼子も純一さんも気持ち良さそうですね

私も…このまま眠っちゃいましょうか

まるで家族のように私達は安らかな雰囲気に包まれています

枯れない桜の下で…

私達の関係が始まりを告げました

それはここにいる頼子がもたらしたものでしたが、今は自分の足でここに来る事が出来ます

「ありがとうございます」

あなたのおかげで…私は願いを叶える事が出来ました

純一さんと…共に歩く今を…

そして新しい願いは自分の手で掴まないといけません

純一さんと歩く、永遠の未来という願いは……

『頑張ってね、美咲ちゃん』

私も眠ってしまう前に聞こえたのは、そんな桜の木の言葉でした

 

 

 

 

桜が咲く春に私達の関係は始まりました

 

そして、恋を成就させて再び訪れたサクライロノキセツ

 

今度は育む時です

 

この芽生えた恋心を…

 

愛へとかえるために

 

恋が愛へかわる…

 

そんな時間

 

サクライロノキセツ

 

 

〜Fin〜

 

 

後書き

ライ:できたできた♪ およそ6時間の格闘の末完成しました

   桜か春がテーマと言う事で考えたのですが、やっぱりボクだし美咲で行こうと言う事になりました

   色々短編を考えたのですが、連載小説のサクライロノキセツをチョイスしました

   理由はサクライロノキセツで春の描写が少なかったことと、桜のSSということならこれがいいだろうという理由です

   1話は5月からの始まりでしたから、4月の描写というイメージで書きました

   ここからサクライロノキセツの話が始まります

   後、ゲスト出演の3人はSHUFFLE!よりシア、キキョウ、稟です

   これは約束として出しました

   彼らに会ったから美咲は少し積極的になろうと思った

   ちゃんと意味合いも持たせての登場です

   せっかくのお誘いなので、あまあまなものを書きたかったのですが、ボクの実力じゃこれが限界です

   それでは満足していただけることを祈りつつ締めたいと思います

   ありがとうございました