春の情景 〜父の邂逅〜

   Written by 龍馬







ひらり…ひらり…

目の前を薄い桃色の花びらが掠めた。



「うん?桜か…」



「どうしたんですか?芙蓉さん。急に立ち止まって…?」



「いや、なんでもないよ。…ただもう桜が咲く季節なんだなと思ってな」



「え?…ああ本当ですね」



「ああ」



出張先の京都某所。

取引先に行く道を歩いていたら、そこは美しい桜並木だった。

たくさんの桜が咲き誇り、道行く人の足を止め、その美しい姿に目を奪う。

その中の一人に、楓の父も混じっていた。



「季節の巡りって早いもんですね。気づいたらいつの間にか…といった感じですね?」




「まったくだな」



共に桜を見上げていた部下がそんな風に言葉を出す。苦笑しながら俺は答えた。



(本当にいつの間にか…だな)



そう…“いつの間に”か。

気づけば、季節は巡っている。

しかし、少し前までは、自分の時間は、“あの時”以来止まっていた。

あの時…自分の大切な人たち、愛する人、そして親友を亡くした時…。

季節の巡りなんて関係なかった。

常にあったのは…“後悔”そして“悲しみ”

自分の浅はかな行動が、大切な人たちの命を奪った。

そして、その子供たち…楓と稟の二人の中を引き裂いてしまった。

何度罪の意識に悩まされ続けただろうか?

それなのに、二人の子供は自分の事を恨もうとせず…しかし、楓は稟を恨むことで、生きる意味を見つけ出してしまった。

恨まれるはずの自分は、稟を盾にしてその罪から逃げていた。

おかげで、彼につらいものを全て背負わせてしまった。







そんな自分の罪が救われたと思ったのは昨年の秋…。







久しぶりに帰省した家で待っていたのは、笑顔の娘の姿とその傍にいた稟、そして、新しく増えた家族…プリムラの姿だった。

その姿を見た時、自分は漸く許されたのだと思った。

楓の笑顔は、今までの作っていたものとは違う…心からの笑顔だったのだ。

その笑顔の先には、稟の姿があった。

そこから、二人の間に何があったのか大体の察しはついた。



だからこそ、彼に…稟に言うべき言葉があった。



たいしたことのできなかった父であったが…

それでも…言わずにはいられなかった。



その一言を話したときの、彼の力強い返事は忘れはしない…。



「…さん!芙蓉さん!!」



「ん?」



気がつけば、耳元で部下が叫んでいた。

どうやら、桜を見ていて、少し自分の世界に入っていたようだ。



「何、ぼーとしてるんですか!?早く行かないと、取引の時間に遅れますよっ!!!」




「ああ、すまんすまん」



まったくもう…そんなことをぶつぶつ言いながら、部下が急かす。

俺は再び苦笑しながら、それに応じて足を進めた。



ひらり…ひらり…



桜は舞う。



その美しい姿が、わずかな時の間のものであっても…



ひらり…ひらり…



桜は舞う。



例え僅かな時であったとしても、その姿は決して人々から忘れられることはない…



季節は巡り、そしてまた春は訪れる。



ある春の情景。



(Fin)







あとがき



ども。久しぶりの龍馬です。

今回は楓パパの心情をメインに小説を書かせていただきました。

小説を書くことですら久しぶりだったので、多少…いや、かなり違和感のある文章かもしれませんが、それでも読んでくださった方がたに感謝の念を抱きながら、これからも頑張って小説を書いていきたいと思っています。