X-18999 内部通路



コロニーのドックに至る狭い通路をショートカットの女が駆け抜けて行く。

その後ろからはチェリーズの兵達が逃走を阻もうと追ってくる。



つばさ「よっ、はっ、とぉっ」



逃走中の女…つばさはドックに出る直前、隠し持っていた小型ボムを投げる。

それを見た兵達は一斉に立ち止まり逃げようとするが、

プロのテロリストのつばさである、ギリギリまで手に持つぐらいの芸当は普通にやる。



ドゴォオオオオオン



つばさ「うっし!」



追手の足止めに成功したスキにつばさは停まっていたシャトルに乗り込んだ。



つばさ「豚箱に放り込んでくれたんだったら、

脱出を手伝ってくれたって罰はあたらなかったと思うけど?」

ひかり「脱出道具に小型ボムをあげたでしょ?それに、私が待ってたのはあなたじゃないわ」



ひかりが誰を待っていたかつばさが尋ねようとした時、

後ろから二人の少女の声が聞こえてきた。



真魚「ひかりさん、捕らえられていた要人の皆さんは救出しましたよ」

美魚「敵の注意がこちら側に引き付けられているうちに別の宇宙港から脱出したようです」

つばさ「やれやれ、そういう事だったのね」



プリベンターの姉妹を見たつばさは嘆息を漏らす。

恐らくつばさ達がコロニーに突入したあと、真魚らを手引きしたのはひかりであろう。

そして、つばさの脱出する行動を囮に要人達の救出も済ませたのだ。



真魚「つばささん、ありがとうございます。ちゃんと『ごちそう』を残しておいてくださいましたね」

つばさ「や、それって冗談ならサイテーだけど、本気だったらもっとサイテーだから」



4人の乗ったシャトルはX-18999コロニーを離れた。




Operation.3 "Return to Steady"



地球 高空層



大気圏に突入したことによるブラックアウトを終えた、

ゼロは翼を展開しアルトロンの姿を確認する。

一方のアルトロンも展開したパラシュートパックを切り離し、ゼロを迎え撃つ。

下には海が広がっていて、戦闘可能な残り時間は多くは無い。



山彦「桜香の独裁をゆるせば悲しく惨めな戦争の歴史が繰り返されるんだぞ」

舞人「自ら進んで勝ち取ろうとしない平和など、俺は認めない!」

山彦「俺たちは人々のために戦ってきたはずだ、今ここにある人々の平和を信じてみろよ」

舞人「人々は喪失の先にある本当の悲しみを知らない!

だから、戦争をもっと見つめなくてはならないんだ!」





舞人の脳裏に浮かぶのは一人の少女の笑顔。



希望『きゃははは、恋人同士だなんて、てれりこてれりこ』



希望『このぎゅーっとされたい気持ちが恋ってこと?』



あの頃、確かに舞人は幸せだった。

しかし、その後に訪れた大きな喪失…





舞人「っ!」



その狂おしい思いを操縦桿に込め、舞人のアルトロンはゼロに斬りつける。

そんなアルトロンの行動に対し、山彦のゼロも…

一切の回避行動を取らなかった。



グワァキィン!!



トライデンの斬撃をうけて右肩から胴体にかけて大きな損傷を負うゼロ。

それはあきらかに、わざと防御姿勢をとってなかったと言えた。



舞人「山彦!貴様…」

山彦「お前のやり方は、悲劇という名の歴史がいつまでも続く…

舞人、教えてくれ、俺たちはあと何人殺せばいいんだ?」



バーニアも止めたのだろう、重力に引かれるまま自由落下していくゼロ。

やがて、ゼロの機体は海面に叩きつけられて大きな水柱を上げていた。



舞人「悲劇が…繰り返される…」







衛星軌道上ウルカヌス内部



こだま「みんな、準備はいい?」

つばさ「おっけー」

ひかり「やはり、オペレーション・メテオはこうあるべきね。」

こだま「それじゃ、行くよっ!」



ウルカヌスのエアロックが切り裂かれる。

そこからデイフェンサークロス装備のこだまのガンダムサンドロックカスタムを先頭に、

つばさのガンダムデスサイズヘルカスタム、

ひかりのガンダムヘビーアームズカスタムの3機が地球へと下りて行った。





ブリュッセル



ブリュッセル市街ではチェリーズのサーペントの熾烈反撃の前に豊のトールギスVと

翠のトーラスがなかなか防衛線を突破できないでいた。



翠「豊さん、中央突破は無理です!」

豊「無茶は承知!だが、これくらいやら無ければ、立ち上がらない人たちがいる」

翠「誰を…待たれているんですか?」

豊「平和を望む人達だよ、翠ちゃん」



サーペントのガトリング砲の砲撃を掻い潜り、

その砲身と頭部をビームサーベルで斬り飛ばす豊のトールギスV。

さらに後退する時にはもう一体別の敵機の脚部にヒートロッドを絡ませ、

他の敵機を共になぎ払う事で、敵を次々と行動不能に陥らせていった。

一方翠の白いトーラスもその高い機動性と精密なビームライフの射撃で、

サーペントの武装や四肢を撃ち抜き、戦闘不能にしていった。

しかし圧倒的な多勢に無勢、いつまでたっても敵が減っている気配が無い。



翠「さよならは言いませんよ、豊さん!」

豊「当然さ!」



そのとき豊の目の前のサーペントの両腕が斬りおとされた。

倒れるサーペントの背後にはマントを纏った一体のガンダムが居る。



こだま「さすがはお二人ですね、これだけ戦って一人も死なせていないなんて」



追加装甲であるデフェンサークロスをパージしながら、

こだまのサンドロックがブリュッセル市街に降り立つ。



豊「忘れたのかい?俺は、不可能を可能にする男だぜ?」

翠「豊さん、それキャラ違います」



今度は横一列にならんだサーペントの首がいっせいに宙に舞う。

つばさのデスサイズ・ヘルのビームサイズによるものだ。



つばさ「地獄への道連れはここにある兵器と戦争だけにしよっ!」



ドゥガガガガガッ



サーペントに向かって無数の銃弾が襲う。

ひかりのヘビーアームズのツインガトリンクガンである。

信管の抜かれたその弾は装甲を撃ち抜く事無くダメージを与え、サーペントを行動不能にしていった。



ひかり「のこり250…一人50機の割り当てね、MSだけを相手にするなら何とかなりそうかしら」

翠「皆さん…」

豊「ああ、そうすれば柿谷の野望もそこまでだ…行くぞ!」



かつての戦争終結の立役者のうち5人が、今再び立ち上がった。







大統領府 司令室



大統領府は地下シェルターの収納機能の他にも、

外の状況を確認できる司令部としての機能も持っていた。

現在、チェリーズによって占拠された司令室のメインスクリーンには

外で戦うガンダム達の姿が映し出されていた。

この映像は、チェリーズの力を示すために世界中に配信されていた。



柿谷「ガンダムどもめ、何処までもワシの邪魔をすると言うのか」



かつて、自らの発案したオペレーションメテオにおいて中核を担う戦力であったガンダム。

しかし柿谷との意見の相違によりガンダムの開発者達は、

オペレーションメテオの内容を勝手に変更、

その結果は柿谷の目論見とは大きく異なるものであった。

憤怒に震える柿谷とは対照的に桜香の反応は冷淡なものであった。



桜香「たとえ、MSを破壊することは出来ても。

このシェルターを破る事は到底不可能です…感動の再会も叶いそうにありませんね」



しかし、外で戦うガンダム達の姿を見て、

決意を新たにする一人が居た…他ならぬ星崎希望である。

希望は不意に駆け出すと司令室のコンソールに立ち、外に向けての通信回線を開く。







ブリュッセル郊外



希望『市民の皆さん、この映像を見て恐れてはいけません!

本当に大事なものは誰かに与えられるのではなく自分の手で…』



一瞬映し出された希望の姿の後に、

街頭の大型スクリーンは再び戦うガンダム達の映像に切り替わっていた。



弥太郎「おい、今のは…」

谷河「ああ、クイーン・ノゾミ」

麦兵衛「って、言うか俺達の出番はこれだけですかぁ!?」



…そして、希望の声は別の少年の元にも届いていた。







深海



山彦「…動けるかゼロ?俺達にはまだやらなくちゃならない事があるようだ」



暗く冷たい海の底で大天使が今、裁きを下すために舞い上がった。







司令室



外への回線を遮断した柿谷が、突然行動に出た希望の事を見る。



柿谷「登場にはまだお早いですぞ、元女王陛下」

桜香「民衆を戦いに導くのですか?それは完全平和主義に反するのではないのですか?」

希望「今の私はサンクキングダムの王女ではありません。

今の人々に必要なのは主義や主張じゃなくって、真の平和を望む心なんです。

憎しみは新たなる憎しみを生むだけ…その先に希望はありません」

桜香「それは貴女が戦いに敗れたからです。戦争とあの方との…

しかし、私は勝者になるのです。もう間もなく…」

オペレータ「ガンダム、完全に沈黙しました!」



メインスクリーンに映し出される、つばさたちのガンダム。

あまりにもの多くの敵を前に、弾薬・エネルギー切れを起こしていた。







ブリュッセル市街



こだま「もう、何も残ってないね」

つばさ「自爆装置で後の半分は片付けられそうだけどどうする?」

ひかり「いえ、自爆するなら周りを巻き込まないで。死ぬのは私達だけで十分よ」

つばさ「それもそうね」



武器を失い、文字通り身一つとなってしまったガンダム達。

ガンダム達をサーペント部隊が包囲しはじめる。



翠「もういいです、皆さんは撤退してください」

こだま「撤退!?」

豊「ああ、後の締めはプリベンターの俺達が負う。だから…」

つばさ「や、ここで撤退するくらいならはじめから逃げてるし」

ひかり「コイツらはかつての私達と同じ…柿谷の口車に乗せられてるだけよ」

翠「でも、このままでは!」

つばさ「お生憎と、負け続ける戦いには慣れちゃってるのよねー」

こだま「だからこそ、私達は私達で居られるわけですし…」



そのとき5人の機体に一斉にロックオン警報が鳴り響いた。

それは、はるか上空に出現した新手を示していた。



ピピピピピ!



こだま「上!?」

ひかり「新手?」



MSの超望遠センサーで捕らえたその機影は大きな白い翼を纏い、

地上に裁きを下す大天使を彷彿とさせた。



豊「ウィングゼロ!」

つばさ「ヤマ!!」







大統領府 司令室



アルトロンガンダムが足止めをしているはずのガンダムの参戦に司令部は喧騒につつまれる。



柿谷「ウィングゼロだとぉ!?」

オペレータ「ガンダムのパイロットより通信が!」

山彦『確認する…シェルターシールドは張っているな?』



降伏勧告でもない突然の通信に柿谷の反応が遅れる。



山彦『シェルターは完璧なんだな?』

桜香「勿論です、貴方達の無力さを思い知りなさい」

山彦『…了解した』



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!



その直後、司令部を激しい衝撃が揺らした。

山彦のウィングゼロの主武装…ツインバスターライフルによる射撃が開始されたのだ。

第一射を耐え切ったシェルターの中に居ながら桜香がつぶやく。



桜香「み…惨めな方ですね…こ、こんな事をなさってもむ、無駄なのに…」



桜香の言葉とは裏腹にその声は恐怖に震えていた。

やっと気を持ち直した柿谷が指令を下す。



柿谷「サーペントをここに終結させろ!ウィングゼロを叩き落せぇ!」



柿谷の指令で一斉に上空のウィングゼロに向かって射撃を開始するサーペント部隊。

しかし、山彦は被弾する愛機にかまわず第二射の引き金を引いた。



ドゴォォォォォォォォォ!



一撃でコロニーを崩壊させられるその攻撃を二度も受け、

無事で居られる構造物など皆無に等しい。



オペレータ「シールド強度半減!もう一度同じ所を攻撃されてはこのシェルターは崩壊します!」

柿谷「やめろ!ここには星崎希望も居るんだぞ!!」



直前まで迫った死の恐怖。

その震える気持ちの中で希望のことを見た桜香は、その覚悟を決めた表情に目を見張っていた。



ドゴォォォォォォォォォ!



ツインバスターライフル第三射。

ついにシェルターは崩壊、司令部も至る箇所で爆発が発生し、その機能を停止していた。

しかし、そんな中で希望や桜香が無事で居られたのは奇跡ではなく、

プリベンターとしてこのシェルターに潜入していた橘唯奈が身を挺して庇ったからに他ならない。



オペレータ「柿谷様!第4防衛ラインに市民達のデモ隊が!」



やっと復旧させた通信機器で外の状況を確認したオペレータが、即座に報告する。

それは希望の言葉、ガンダム達の戦いぶりをみて、

自ら平和を勝ち取るために立ち上がった市民達の姿であった。



唯奈「負け続けながらも立ち上がる事を辞めないこと、

それが真に未来を切り開く力となるのです。

人々の心を動かすのは一人の指導者の力ではないのです。

…貴方の負けです、柿谷大路!」



唯奈の凛とした一言に言葉を失うチェリーズの兵士達。

しかし、柿谷は諦めない。



柿谷「何を言う、我々こそ真の地球圏の支配者なのだ。

さあ桜香様、今こそ地球圏の頂点に!」

桜香「私…は…支配者…」



おぼつかない足取りで柿谷の元に行こうとする桜香の前に希望が立ちはだかる。

そして…



パチィーン



希望の平手が桜香の頬を打っていた。



希望「ごめんなさい。でもね、もう目を覚ましたほうがいいよ」

桜香「希望さん…」

希望「貴女は恐怖というものを知って、己の無力を知った。

一人ぼっちという事がどれほど辛い事か知ったはずです」

柿谷「そこまでにして頂きましょうか、星崎希望」



見ると柿谷が希望向けて銃を構えていた。



希望「撃つならかまいません。けど、私はこの名前を持っているかぎり、

どんな暗闇の中でも未来への希望を失いはしません」

柿谷「なら、望みどおり旅立たせてやろう、…希望の無い死の世界へな」



引き金にかけられた柿谷の指に力が込められる。



バンッ!



しかし、その凶弾が希望を襲う事は無かった。

間に入った、小さな身体が受け止めていたから…



希望「桜香ちゃん!」

唯奈「柿谷!貴様ぁ!」



自らの盟主であるはずの桜香を誤射しても一向にたじろぐ気配の無い柿谷。



柿谷「ふん、桜香の代わりはいくらでも作れる。その娘もワシが…」



バンッ!



柿谷の言葉を遮るように鳴り響いた一発の銃声。

それは柿谷の側頭を貫き、柿谷を絶命させていた。

みるとチェリーズの兵の一人の少女が、銃を握って震える腕を下ろしていた。



香澄「逆賊は処刑した…これで先生への裏切りをお詫びします…」



一斉に敬礼をするチェリーズの兵達。

希望は自らをその身で庇った桜香の元に駆け寄った。



希望「桜香ちゃん!」

桜香「私は…間違って…居たのでしょうか…」

舞人「すぐ楽にしてやる」

希望「舞人くん!」



そこに居たのはウィングゼロの攻撃の後、

即座にアルトロンでこの場に駆けつけた舞人の姿であった。

舞人は桜香に向けて拳銃を構えると僅かな音ともに撃鉄を起した。



カチッ…



しかし、舞人の銃から銃弾が放たれる事は無かった。



桜香「ありがとう…」



か弱い一言と共に意識を失う桜香。

一方の舞人も…



舞人「桜香は『死んだ』…これでもう、俺は誰も殺さない…殺さないで済むんだ…」



倒れて行く舞人を咄嗟に希望が抱きかかえる。

舞人を抱きかかえる希望の表情は柔らかな笑みを浮かべており、

全てを取り戻した少女の深い想いが込められていた。







Operation.3 Quit


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