X-18999 コロニードック内



ドック内の床に整列した軍服姿の人々。

その前方の壇上で一人の老人が演説をしている。



柿谷「諸君、ついに我々が桜香様の為に立ち上がる時が来た。

この一年間、耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍んでいてくれた君達に感謝を述べよう。

今日から諸君らは栄光の道を歩む事になるだろう。

だが…、その前に不穏分子の処分を考えなくてはならない」



柿谷のその言葉に体を強張らせた人物が居た。



柿谷「結城ひかり、前へ出ろ!」



柿谷の拳銃が向けられ、あたりの兵達が一歩後ずさる。



ズキューン



ひかりは拳銃の弾着よりも速く飛び上がり、伸身宙返りで壇上に着地。

そのまま携行していた拳銃を抜く。

…しかし、彼女の指は拳銃のトリガーを引く事は無かった。



ひかり「!!」

舞人「辞めろ」

ひかり「桜井…」



ひかりの目の前には円月刀をひかりに突きつけた舞人の姿があった。







A.C.(AfterColony)195年クリスマス・イブ、人類史上最後の戦争を終え、

恒久的な平和を目指す地球圏統一国家を樹立した。

この戦争終結の原動力となったのは、5人のガンダムのパイロットたちの活躍だった。

A.C.196年8月、5人のガンダムパイロット達は、自らのガンダムの破棄を決意。

5機のガンダムのうち4機を廃棄資源衛星ウルカヌスに載せ、太陽へと旅立たせた。

現在、地球圏に戦闘兵器は存在しない。地球圏には平和が訪れたかのように思われた。





Operation.1 "Silent Orbit"


A.C.196 X'masEve



L3・X-18999コロニーは突如、地球圏統一国家に独立を宣言するとともに宣戦布告。

軍事組織「チェリーズ」を名乗り、隠し持っていたMS等で徹底抗戦の構えを取った。

これに対し、地球圏統一国家も黙ってはいない。

前大戦以後、再び戦争の火種が燃え盛らないようにする火消し、「プリベンター」が事態の収拾に乗り出した。

…そして彼等もまた、動き出したのだ。







L3宙域



独立宣言をしたX-18999コロニーからややはなれた宙域に、

一艇のコンテナ貨物艇が浮かんでいた。

地球圏統一国家の特殊諜報組織「プリベンター」の船である。

その操縦席にはプリベンターの主要メンバーである、

二見真魚、二見美魚、狭川翠の3人がいた。



美魚「それではX-18999コロニーを訪問中だった星崎外務次官は…」

真魚「チェリーズに捕らえられたとみて間違い無いでしょう」

翠「希望さん…」



星崎希望、かつて完全平和主義を唱える国々の代表的存在であった、

サンクキングダムの王女であり、その後にロームフェラ財団主導で作られた

世界国家で女王として祭り上げられた少女である。

戦後は、地球圏統一国家の大統領へとの誘いを辞退し、

そのカリスマ性から統一国家の外務次官として世界各所を飛び回っていた。



翠「X-18999コロニーの表向きの動きは?」

美魚「現在、MDトーラスを主力とする部隊が展開中の模様です」



貨物艇の居るこの場所からX-18999の様子を観測した結果、

X-18999の周囲には無数のMDトーラスが配備されており、

いかにプリベンターと言えども容易に接近することは出来なかった。

しかしそのときレーダーを監視していた真魚はレーダーに映る機影を発見した。



真魚「X-18999に急接近するシャトルを確認」

翠「このままじゃ防衛のMD(モビルドール)の群れに突っ込んでしまいますね」

美魚「接近中のシャトルの人!ここは危険空域です、進路を変更してください!」



美魚の問いかけにシャトルが通信回線を開く。

すると表示されたのは前大戦で翠達と共に戦った少女の姿だった。



つばさ『やっ3人共、元気してた?』

美魚「つばささん!?山彦さんまで…」



モニターに映し出されたのは「人類最後の戦争」において

戦争終結の原動力ともなった「ガンダムパイロット」のうち二人、

八重樫つばさと相楽山彦の姿であった。

やや慌て気味の美魚に対しモニターの中でつばさは気楽そうに言った。



つばさ『や、何でも大きなパーティーが開かれるって言うからさ、ちょっと遊びに来た』

真魚「無茶です!ガンダムも無しにあれだけのMDを相手にするなんて」



彼女らガンダムパイロットは普通の兵士では考えられないほどハードな訓練をつみ、

超一級の工作員としての技能も高い。

だが、彼女らの乗っているのは、ブースターを装備しているとは言え普通の非武装シャトルである。

対する敵は多数のMDトーラスを配備し、万全の体勢を引いていた。

彼女らの技量を考えてもその突破は容易では無い。



翠「つばささん、また私たちに協力してくれませんか?」

つばさ『や、悪いけどそうなった時に考えさせてもらうわ。

それじゃ、パーティの時間に送れちゃうから…

追伸、御馳走が無くなってても文句は言わないでね♪』




そういいながら一方的につばさ達の方から回線を切る。

いつもどおりの当たって砕けろな彼女らの作戦に、

呆れながらも翠はコンソールを操作する。



翠「二人とも、あの二人の援護をしましょう」

真魚「結局はあの方たちの援護をさせられてしまうんですか」



真魚のうんざりしたような言葉と裏腹にその顔は笑顔に満ちていた。



美魚「でも、こういう時にこそ、彼女たちが一番心強いですよね♪」







ドゴッォォォォォォォォォ!



最大加速でコロニーに突進するシャトル。

敵性判断したMDトーラスがビームライフルで攻撃してくるが、それを軽々避ける。



つばさ「どう?私の腕も大したもんでしょ♪」

山彦「ああ、八重樫さんの腕は最初っからアテにしてるぜ」

つばさ「知ってる♪」



シャトルに戦線を突破され、追撃をかけようとしたトーラスにビームが直撃する、

翠達のプリベンターの偽装コンテナ艇の射撃である。

戦術的により大きな脅威の登場に、MDトーラスの攻撃目標がコンテナ艇に変更される。

しかし、攻撃目標が変更されるよりも早く貨物船は積荷のコンテナをパージしていた。

するとそのコンテナが展開し、中から無数のミサイルが発射され、次々とトーラスを襲っていった。

プリベンターの援護射撃の中、つばさ達のシャトルはコロニー内へと強行着陸に成功した。







数時間前 里見家所有資源衛星



資源衛星から伸びる桟橋の先、一艇の輸送船が出航しようとしていた。



こだま「ごめんね、二人にも付き合わせて。

元々は私がガンダムを太陽に飛ばそうなんて言い出したから…」



輸送船の操舵室でガンダムパイロットの里見こだまが、

仲間達にすまなそうに言う。



佐竹「仕方ねーよ、誰だってこんな事予想付かなかったんだから」

宇都宮「でも、今からでウルカヌスに追いつけっかな?」



宇都宮の発言にこだまが星系モデル図を呼び出す。



こだま「今、ウルカヌスは金星と地球の中間点にいるの。

この惑星間宇宙船ならギリギリ追いつける計算になるよ」

佐竹「帰ってきたら、地球国家が無くなっていたなんて洒落になんねーからな」



モニタに出力されるウルカヌスと宇宙船の行路のシミュレーション結果。

ウルカヌスの場所は既に金星に近い。

もう少し経っていたら太陽の灼熱に晒され、

ガンダムを回収することは不可能になっていただろう。



こだま(鍵は私達が握っている。みんなのガンダムを早く取ってこなきゃ…)







地球プリベンター本部



唯奈「ですからそれは…!」



プリベンター本部ではプリベンターのリーダーである橘唯奈が、事態の把握・収拾に追われていた。

唯奈のデスクの電話はさきほどから引切り無しに、鳴り続けている。



唯奈「…後手に回ってしまったことは、いた仕方が無いこと。

だから、それをどう決着付けるかが…」



コンコン



唯奈「誰!?」



ノックの後、部屋内に入ってくる。



唯奈「!?貴方はっ!」

??「おっと突然でわりぃな、俺にもコードネームを貰えないか?

さしずめ火消しの風『ウィンド』とでも名のらさせて貰おっか。

ついでにこっちで保管しているっていう『3匹目のじゃじゃ馬』の使用許可をくれるかな?」



男は軽い口ぶりで唯奈に語りかけた。

旧知の仲なのか唯奈は最初こそ、その登場に驚いていたが、

男の用件が自分らに協力することだと知ると、いつもの表情を取り戻した。



唯奈「いいでしょう『ウィンド』、指令を与えます…」







X-18999コロニー内部



コロニー内ではMS戦が繰り広げられていた。

コロニー内に突入したつばさと山彦は2機のリーオーを奪い、MSの破壊活動を続ける。

また一機、ビームサーベルで敵のリーオーを葬るとつばさは山彦に通信を入れた。



つばさ「良く整備されている機体だけど、ガンダムじゃないし長期戦になるとちょっちヤバイかも」

山彦「倒すだけ倒したら脱出しよう。あとは自己の判断で行動をするんだ」



それはつまり2手に別れて行動する事を意味していた。



つばさ「了解」



それぞれ別方向のブロックに行く2人。

山彦のリーオーはまた通路でリーオーの防衛部隊に遭遇する。

リーオーのライフルの射撃を最低限の動作で回避するとそのままビームサーベルで斬りかかる。



山彦「!!!」



コックピット内に警告音が鳴り響くとほぼ同時に山彦のリーオーは回避行動をとる。

巨大な龍の牙がが山彦が今斬りかかろうとしていたリーオーに突き刺ささる。

そんな威力のドラゴンハングをもつMSは1機しか存在しない。

その龍を腕に戻すのはアルトロンガンダム…現在唯一地球圏に残っているガンダムだった。

アルトロンのパイロット、桜井舞人は山彦を確認すると静かに語りかけた。



舞人「俺は、お前に聞きたい事があった」

山彦「舞人…」







山彦が舞人と出会ったその時、

別の区画でリーオーで破壊活動を行なっていたつばさの目の前で、エアロックが開いた。



つばさ「新型MS!?」



ドゥガガガガガガガガガ!



扉が開くなりそのMSはガトリングガンを乱射し弾幕を形成する。

つばさは物陰に隠れて反撃の期を窺うが、敵の戦い方に既視感を感じていた。



つばさ(この戦い方・・・まさか!)



チェリーズの新型MS『サーペント』のモーションがあのガンダムと重なる。



つばさ「間違いない!結城先輩でしょ!」

ひかり「………」



つばさの呼びかけにガンダムヘビーアームズのパイロット、結城ひかりは答えなかった。

埒があかないので物陰から飛び出し、リーオーのライフルを打つ。

だが、ガンダニウムよりもさらに丈夫な、ネオチタニウム製の装甲に効くはずも無い。



つばさ(ちっくしょぉお!)







X-18999コロニー周辺宙域



翠「X-18999コロニーから発進したトーラス部隊はプリベンターの月艦隊が捕捉してくれています。

かなり迂回しているようですが…目的地は地球と見て間違いないですね」

真魚「そうですね…」



翠の報告を聞きながら真魚は先ほどの戦いから感じていた違和感に気が付いた。



真魚「ねぇ、二人とも。さっきの戦いで新型MSは確認した?」

美魚「いえ、お姉ちゃん…そういえばトーラスと宇宙リーオーばかりだったよね?」

翠「そういえば…」

真魚「っ!どうやら、私たちは彼らを甘く見すぎていたようですね」



真魚の指がコンソールを走り、大急ぎでトーラス部隊の観測データを呼び出す。



美魚「熱探知に反応無し!あの部隊の大半はMDってこと?」

翠「ということは…」

真魚「新型MS装備の別働隊が居るって事ですね…」







地球衛星軌道上 資源衛星MO−V



地球の衛星軌道上に浮かぶ資源衛星MO−V、

此処こそがチェリーズ本隊の拠点であった。

眼下に広がる青い地球、それを見下ろしながら柿谷は笑った。



柿谷「フフフ…わたしの計画は完璧だ、立木とは違う。

地球降下制圧作戦開始!制圧目標、ブリュッセル・地球圏統一国家大統領府!」



MO−Vから次々とMS輸送艇が発進していった。









X-18999コロニー内部



山彦「何故裏切った舞人!」



舞人のアルトロンガンダムがビームトライデントを振りかざし、山彦のリーオーに斬りかかる。

山彦はそれをなんとかビームサーベルで受け止める。



舞人「お前が主役なのか!」

山彦「何!」

舞人「お前が主役なのかと聞いている!!」



さらに斬り込んで来るアルトロンに対して宇宙リーオーはとっさに逆噴射することで間合いをとる。

リーオーのステータスランプは殆どの関節が限界に近づいている事を示している。



山彦「舞人、自爆装置のスイッチを押せ!」

舞人「ふん」



舞人のアルトロンが一気に間合いを詰め、山彦のリーオーに斬りかかる。

山彦もビームサーベルで受けようとするが、既にかなりのダメージが蓄積し反応の鈍ったリーオーでは

受け止められず腕から脚部にかけて決定的なダメージを与えられてしまった。

姿勢を崩して倒れたリーオーのハッチをパージし、山彦がコックピットから外に出る。



山彦「舞人、ガンダムパイロットには暴走は許されない。

もう一度言う。自爆装置のスイッチを押せ」



必死に呼びかける山彦に舞人はただ見下すだけだった。







つばさ「くっぅ!」



頭部および脚部にガトリンクガンが被弾し、こちらもやはり体勢を完全に崩されたつばさのリーオー。



つばさ「結城先輩、何故裏切ったの!」

ひかり「人違いよ、わたしはひかりじゃないわ。」



ひかりの乗るサーペントは肩のミサイルランチャーを展開し、ミサイルを発射する。

既に何箇所も被弾しまともな回避行動も取れないつばさのリーオーでは、

直撃をうけ、ただでは済まない損傷をうけてしまうだろう。



つばさ「まじっ?」



ドゴォォォォォォォォン!



つばさのリーオーはミサイルの爆風に包まれた。







ゴォォォォォォォォォ!



舞人「くっ・・・」



ひかりのミサイルによる爆風が、隣のブロックで闘っていた山彦と舞人の間に吹き込む。



ゴォォォォォォォ!



密閉空間を吹き抜ける爆煙風に視界を奪われる舞人。

視界を取り戻してリーオーを確認した舞人だったが、

そのコックピットには既に山彦の姿は無かった。



舞人「山彦・・・決着はつける」







つばさ「・・・はっ」



予想されるミサイルの衝撃に耐えるべく身構えたつばさであったが、予想されたほどの衝撃は来なかった。

既に行動不能となっていたリーオーのハッチをパージし、外に出るつばさ。

そこにはひかりのサーペントの姿はもはや無かった。



つばさ「先輩・・・あいかわらず素直じゃないんだから!」



つばさは苦笑しながら、状況把握をするためその場を離れていった。







Operation.1 Quit


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